
失敗作おじさん
あるところに、いつも公園のベンチにいる年を取った男がいた。(以下老人と表記) 老人は毎日遊びに来る子供たちを眺めては、楽しくなかった自分の人生を振り返り、ため息をついていた。 あるとき少年が、老人に向かって「なんでおじいさんはいつもそこにいるの?一緒に遊ぼう!」と話しかけた。 すると老人は一度少年を睨みつけたが、なんだか恥ずかしくなって下を向いた。 しかし少年は、もう一度話しかけてきた。 老人は少し笑って、「ありがとう。けど、私はいいよ。 …今までずっとこんなんだったよ。せっかく誰かに誘われても、ことわってばかりだったよ。 わかいうちに好きな事をしておくべきだった。 こんな老いぼれになってからでは、時間も体力も残されていない。 私はね、どうにも頭が悪くてね。 マトモな学校にも入れないまま、好きでもない勉強をやり続けた。
けど私はバカで、結局どこにも行けなかった。
そのままだらしない大人になった私は、売春女と結婚した。
そのまま続けばよかったものを、私はつまらない仕事ばっかりして、酒に溺れていった。
それが原因で、離婚した。
仕事もうまくいかなくなって、職を失った。
はあ、私は家もなくなって、今じゃこんなクソジジイだよ。
お前はこんな風にならないで、自分の得意なこと、好きな事で生きろよ。
どんだけ頑張ったところで、できないことはあるんだから。」という話をした。
少年は、よくわからないという顔をしている。少年の親は、「そんな人に関わっちゃダメ。」と言い、帰ってしまった。
老人は寂しそうに、夕日で紅くなったベンチの上で、ただひとり葉巻をふかした。
拾い物の葉巻から出た煙は、通りかかった人の体に入り込み、体の中、頭の中まで真っ黒な煤で染めた。
次の日の朝、老人の命は葉巻の煙といっしょに消えた。
人々は老人のあちこちに墨で落書きして、「失敗作おじさん」と呼んだ。